2月6日、「NIKKEI 生成AIシンポジウム」に東京大学の松尾豊教授が登壇。「産業界でのさらなる生成AI活用」と題した20分間の講演を行った。

松尾氏は、DeepSeekに対する過剰な報道を取り上げ、GPU使用量や開発コストに関する誤解について慎重に指摘した。例えば、R1が少ないGPU使用量でOpenAIのモデルと同等の性能を達成したとされる報道について、実際にはR1のベースモデルであるV3が少ないGPUで動作しており、R1は強化学習によって思考プロセスを強化したものであると説明。GPU使用量削減はR1の特徴ではないと語り、技術的事実と報道の乖離を指摘してみせた。また、DeepSeekの開発コストが約560万ドルと報じられていることについても、その数字が過小評価されている可能性を丁寧に説明。ハイパーパラメータ調整や試行錯誤にかかる膨大な計算コストが考慮されておらず、実際の開発費用はもっと高いと解説。

松尾氏はさらに、技術的な評価が政治的意図によって歪められている可能性にも触れた。中国のAI技術が米中の勢力図を変えるといった報道に対しても懐疑的な姿勢を示し、生成AIのデータ利用疑惑に関しては、中国企業に対する疑念が過度に強調される一方で、アメリカ企業の類似事例は問題視されないことに違和感を表明。これらの指摘を通じて、氏は聴衆に対し、性急な批判や決めつけを避け、加熱した議論に流されず冷静な視点で事実を見極めることの重要性を示唆した。

本講演はディープシークの話題が中心となったが、これはオーディエンスの関心を見越しての戦略的な選択であったと推察される。松尾氏の説明は、技術的な背景だけでなく、政治的な思惑や意図をも慎重に考慮する内容であり、聴衆はその冷静かつバランスの取れた視点に触発され、自らの立場や意見を再考する機会を得た。感情的な反応を抑え、状況を多角的に分析する姿勢が随所で示されたと感じる。

松尾氏のバランス感覚と冷静な判断力は、AI技術の発展を単なる技術革新としてではなく、より広い社会的・政治的文脈で理解するために不可欠であることを示している。この講演は、感情的な議論に流されることなく、AIの未来を慎重に見極めるための重要な洞察を提供する貴重な機会となった。