2月12日、都内で開催されたSMBC Group Digital Summit 2025にて「AI時代にリーダーが取り組むべきこと、取り組まなくてよいこと」をテーマに対談が行われた。進行役は入山章栄氏。登壇者は、社外メンターサービスの「エール」篠田氏と、老舗かまぼこメーカー「鈴広」鈴木社長。議論はAIの可能性から感情労働の重要性、教育の役割まで多岐にわたり、時に発散しがちだったが、随所にAI時代におけるリーダーシップの本質を示唆する印象であった。
篠田氏は、AIの活用により2か月かかっていた論文調査が10分で完了し、知見を事業開発に生かす時間が増えたと効果を語る。これを受け入山氏は、パークシャテクノロジーズ上野山氏の「AIは知識軸・抽象軸・表現軸で人間を圧倒する」という指摘を引用。一方「問いを立てる力は人間にしかない」とAIを道具として活用する姿勢が重要だと述べた。次に、AI導入が組織構造に与える影響について、篠田氏は「AIによってボトムアップ型の意思決定が促進される組織運営が可能になった」と語る。また鈴木社長は、先駆けてDXを進めてきた経験を紹介。「AIに頼りすぎると、人間が考える力を失う危険がある」との懸念も示し、現場の経験や直感を残すことの重要性を強調した。
入山氏は、AIによる知識のコモディティ化について、J.バーニーとマーティン・リーブスがHBR誌で指摘した「AI時代には、何を言うかより誰が言うかが重要になる」という考察を紹介。知識の取得や要約はAIが容易に行う一方で、発言者への信頼や共感が人間の価値として浮上すると解説。篠田氏は、イギリスの演劇教育を例に「感情を理解し共感する力が、組織の対話やリーダーシップの質を高める」と述べた。鈴木社長も「食品業界において、品質管理の厳格さや顧客との関係構築に感情的な信頼が欠かせない」と同意した。さらに入山氏は「スマイルカーブ」という概念を示し、AIの進化により、知識の集約や情報伝達といった中間管理業務が不要になると指摘。現場の意思決定力を高めるための支援や、上流と下流の調整が主な役割になると述べた。
終盤には、AI依存のリスクにも議論が及んだ。鈴木社長は、「電気が止まったら業務が止まる」という懸念を示し、アナログな業務遂行能力や、現場の知識を引き継ぐことの必要性を説いた。入山氏は、富山和彦氏の『ホワイトカラー消滅』を引用。「人間がAIを信じるのは、基礎教育で得た知識が判断の支えになっているためだ」と語り、知識の土台を築く教育の重要性を強調。今後リーダーに求められるのは、AIを使いこなす知識だけでなく「問いを立てる力」「感情を理解する力」「原理原則に基づく判断力」であると、AI時代に必要な人間らしさを再確認する重要なヒントが示された。