10月31日、東京・八重洲の TODA BUILDING で開催された Weights & Biases 主催「Fully Connected Tokyo 2025」に参加した。昨年の同イベントには、Sakana AI の CTO、Llion Jones 氏が登壇し、「AIサイエンティスト」という構想を語った。それから一年、会期も2日間に拡大し、1日目はワークショップのセッション中心・そして2日目の今日、2トラックで進行する会場全体の空気は昨年から一変した言って良いだろうと思う。
今年は、NTT、NHK、TOPPANという日本企業三社の講演を聴講。結論から言えば、いずれもが 自社独自の大規模言語モデルを、開発・運用しているという点が興味深い。この構図は、SGI(Super Generative Intelligence)やNVIDIAを象徴とする「生成AIの巨大化路線」とは明確に対照的である。世界がより多くの演算資源とパラメータ数を競うなか、日本企業はむしろ、小型で文脈に根ざした“専業知能の構築を志向している。W&Bというグローバル標準の上に、自社の文化・言語・倫理を反映させたAIを育てる姿は、市場の真のニーズを反映しているのだろう。いずれもが大変説得力のあるプレゼンテーションであった。
2年連続で登壇したNTTは「tsuzumi2」を発表。GPU1枚で稼働可能な生成AIモデルとして、10兆トークン規模の学習とSFT+DPOによる事後学習を組み合わせ、高い日本語理解と指示追従性能を実現した。「AIコンステレーション」「Agentic Loop」といった構想は、人とAIが相互に学び合う未来像を描き出していた。NHKは、放送技術研究所が進める、膨大な放送素材、番組制作の過程をデジタル化し、生成AIモデルする取り組みを紹介した。今年は我が国の放送100年にあたる。国営放送局がもつ歴史と文化を、AIが総体的に学習する試みと言える。また、TOPPANは、製造業など機密情報を扱う現場でのオンプレミスLLM運用を強調。を自社環境で安全に運用し、閉域ネットワーク内で知を再結晶化する姿勢を示した。外部クラウドへの依存を排し、情報主権を守りながらAIを内製化する戦略は、倫理と効率を両立させる日本的な解答として注目すべきである。
三社に通底していたのは、「AIを所有する」のではなく「AIを育てる」という発想である。世界が汎用生成AIの巨大化に熱狂の陰で、日本の現場では、演算の拡大から文脈の深化への変化が静かに進行している。Weights & Biasesという共通の地盤の上で、多様な小型LLMが生まれつつある現在、AIの未来はもはや一つの頂点を競う競争ではなく、複数の思考が共存する生態系へと移行しているのかもしれない。
